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夢育川柳「わ」入選作紹介 

2023年度 夢育川柳「わ」へ、たくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。
総評および入選作をご紹介します。

総評

2023年度
夢育川柳「わ」審査委員長 川田拓矢
(文芸家、日本ペンクラブ会員)

「輪」と「和」のテーマは深い。「わ」のお題をそのテーマに絞り、思索の深みへ自分を引きずりこんで力を奮った学生が多かった。逞しい。夢育川柳主催者も、常にそちらのほうへ自在に舵を取る気組みを持っている。ただ、防災運動のキャッチフレーズのような道徳倫理は「感覚」ではないので、「詩」にならないと承知すること。
人生をシャレのめすのではなく、渾身の力で抱き締めようとするのは面倒くさい。面倒くさい仕事をするには、強靭な背骨が要る。面倒くさい仕事は、背骨を正して行なわなければならない。毎年恒例のこの投稿も、自発的なものとは言え面倒だろう。しかし、背骨を正すいいチャンスだと思って、次回も張り切って作句してほしい。
もちろん、シャレっ気のある秀句にも目を光らせている。そちらが真骨頂の人もどしどし投稿するよう望む。ひとこと注意。「わ」を仮名や漢字で十七文字連ねるのはシャレではない。怠惰だ。来年からは自らを戒めるように。
眼痛をきたすほど懸命に選考した。選考のための解釈はこちらまかせにさせてもらったが、技巧に過ぎるものや歌意不明のものは採らなかった。

今年は募集していない一般からの投稿が5句もあった。中の一つ、

想い出の 中の吾子らと 夫と我

投稿の境界が取っ払われた記念碑として掲載しておく。

高校生の部 入選作とその講評

最優秀賞
大成功! 帽子から舞う羽 あいた口
遠き人 羽(輪)の輝きに 手を伸ばす
この生も 万物流転 泡に帰す
わすれないで わたしのことを わすれないで
桐生キャンパス ペンネーム:桜木星歌
(講評) この人は23句の連作のほとんどを父の回顧に費やしている。最愛の人だったという設定なのだろう。斎藤茂吉の「死にたまふ母」を偲ばせる。佳句の取捨に困り、勇を鼓してエイッとまず二句を採った。二句を読まないと意味不明になると思ったからだ。
父はある日、帽子から鳩を出す手品をやって見せてくれた。鳩が飛び出したあと、輪を描くように舞い落ちる羽を見つめながらポカンとしている私を、父は得意そうに、やさしい笑顔で眺めていた。その父はもう遠い人になった。あの日きらきらと舞った羽に思いを馳せ、私はいま宙空に手を伸ばす。
この人の連作の最後の歌は、「わすれないで わたしのことを わすれないで」だ。呼びかけている相手が父であることはまぎれもない。その父が生きていて、作者がいつも彼の死を仮想して苦しいほど胸を痛めていると考えても、いよいよ感銘が深まる。時空を模糊とさせ、読者に謎解きを迫る創作だとしたらものすごい才能だ。だとすれば、その才能をあらためて顕彰したい。
優秀賞
わたしたち わっかになっても わからない
稲毛海岸キャンパス ペンネーム:早稲田
(講評) ということがわかってしまったね。「わっか」じゃわからないんだよ。個に向かって個として体当たりするしかない。そうすればわかり合える(かもしれない)。そこから自然に輪がつながっていく(かもしれない)。どういう結果でも、自分の奮闘の記憶はすがすがしく頭のノートに記録される。それだけで人間は生きていけるものだぜ。生きてる以上、人間は奮闘しなければいけない生き物なんだ。すがすがしい記憶を重ねていくためにね。選者もそれに気づいたのは、かなり晩年だったよ。
優秀賞
意志を持て 付和雷同の 意味を知る
稲毛海岸キャンパス ペンネーム:幾星霜
(講評) 「付和雷同」の対極に「意志」を置いた。その中間に「和合」がある。意志を持って睦み合う和合は付和雷同まで対極移動をしない。和合を前提に置かなければ、独善的な意志になり、軽佻浮薄な付和雷同になる。しかし、独善的意志と付和雷同をないまぜにしながら、中間地帯の和合に位置取りすることがいかに困難なことか。独善と付和雷同をよしとするなら、話はそこで終わりだ。話をそこで終わらせまいとするのが、和合に位置取りしようとする努力ではないだろうか。命というハッキリしないものを維持することは、とにかく難しい。立ち位置を対極的なものに置かず、せいぜいがんばって生きていこうね。これ、自戒。
優秀賞
目に映る 慣れてはいけない 慣れたもの
稲毛海岸キャンパス ペンネーム:葉瑠
(講評) 12句の恋歌連作の一句。初句は「慣れた視線 諦めるのが 最善か」。
作者に向ける彼の視線は熱くないのだ。でも、その視線に慣れてはいけないのだ。慣れてしまったら恋が消え失せる。彼に「和」すことができなくなって、私の生甲斐も消え失せる。
恋にかぎらない。どんなものごとも、慣れてしまえば新鮮さが消え失せ、価値のないものになる。そんな世界で暮らしていたいか? 著者の言うとおり「慣れてはいけない」のだ。登校の道も、夕景色も、勉強も、恋する者の慣れた視線にも慣れてはいけない。新鮮な気持ちを保ちながら、溌溂と生きることこそ、生まれてきた意味だ。
情愛に満ちた孤独から決然と立ち上がるあなたの心意気に拍手を送る。
優秀賞
俺だオレ 俺よオレオレ 本物よ
西船橋キャンパス ペンネーム:シモン メーカー
(講評) 自分以外は仮象の世界? 自分が仮象かもよ。そう考えてみることも必要だね。私が蝶の夢を見たのか、蝶が私の夢を見たのかって漢文があったでしょう。荘子の胡蝶の夢。万物斉同(せいどう)。相対性の否定。究極の自由。理想論であるけど、一考に値するでしょ。少なくとも、自分にこだわっていた心が解放されて虚しさがなくなるよね。
自己完成の苦しみをどんなふうに解決するのもきみの自由だけど、短い命、虚しく生きないでね。解決策が死だけになっちゃうよ。それはつらい。どんな命も、アタラ(惜しい)命なんだ。ぼくのような爺さんの命も、だれかがそう考えてくれてるよ。
きみの句のリズムにはセンスがある。シャレッ気もじゅうぶんで感心する。ところで、私の育った青森の方言では、自分のことを「ワ」と言う。きみが意識していたかどうかわからないが、参考まで。
優秀賞
大輪が 紺の更地に 咲き乱れ
前橋キャンパス ペンネーム:おとうふ
(講評) 紺の更地―絶佳な表現。紺無地の夜空に弾ける花火の群れが鮮やかに目に浮かぶ。描写の妙にうなって採った一句。こういう作品も大歓迎する。
読者の経験を甦らせ、その表現の的確さに感嘆させるのは、文章に携わる者の目指すところだが、この句のようにさりげない語彙の組み合わせの力で達成したいものだ。語彙を組み合わせて独自の感覚を磨くためには、そもそも語彙が必要だ。それは読書と対話でしか獲得できない。言葉はすべての感覚のもとだからだ。
読書と対話には時間が必要だ。この著者は時間の使いどころを心得ているとわかる。その生活を崩さぬよう、そして磨いた感覚で周囲の人びとの感覚に潤いを与えるよう、ますますの精励を願う。
佳作
「war」無くし 世界平「和」で 「輪」を作ろう
桐生キャンパス ペンネーム:miya-miya
佳作
「わ」と打てば 予測変換 トップが「笑」 
古河キャンパス ペンネーム:あもセシル
佳作
他人でも 否定しないが 一つの和
古河キャンパス ペンネーム:R
佳作
わんぱくな ワルツを踊る わんこ達 (ワン!)
太田キャンパス ペンネーム:マトリック
佳作
プルルルル 寿命が縮む 電話音
東京キャンパス ペンネーム:わーー
佳作
勇気出す そして広がる 新たな輪
稲毛海岸キャンパス ペンネーム:カレーうどん
佳作
遅くない 今から変化 まだ一話
西船橋キャンパス ペンネーム:りんご
佳作
「『わ』で始まる 高校ってある?」「俺の母校!」
西船橋キャンパス ペンネーム:316
佳作
リング音 シュートが決まり 大歓声
前橋キャンパス ペンネーム:うさぎ
佳作
忘れ物 取りに行こうよ わせがくに
多古本校 ペンネーム:あかべこ
佳作
倭の故郷 天から注ぐ 鳩の唄
外部応募 ペンネーム:しろのひととき

中学生の部 入選作とその講評

最優秀賞
こんにちは わとわをつなぐ こんにちわ
文京区立茗台中学校 ペンネーム:なし
(講評) 顔を見合わせ、おはよう、こんにちは、こんばんはと挨拶し合う。そうやって人は一生を過ごす。家族も、友人も、仕事仲間も。そうしないでも生きることはできるけれども、鬱屈が募り、敵意が募り、不信が募り、いずれ同胞の関係性から逃げ出したくなる。
私の和んだ心、あなたの和んだ心、「わ」と「わ」の結び合い。それこそ人間の理想だと著者は謳う。結句をこんにち「わ」と決めたところに、彼のささやかなユーモアと、和んだ心がうかがわれる。ニヒルさのいっさいない澄んだ歌だ。
優秀賞
LINEして 通話でも足りず 会いに行く
佐倉市立佐倉東中学校 ペンネーム:こむぎ
(講評) コミュニケーションツールが増えている昨今、簡単につながりを感じることができる。ただ中学生でも一番は直接対面してこそ感じられる温かみの「わ」を知っているようだ。あえてアナログに、それでこそ伝わること、それでしか伝わらないことがあることを、時が流れても覚えていてほしい。
優秀賞
輪になれば うえしたもなし 皆なかま
高崎市立佐野中学校 ペンネーム:おさっちゃん
(講評) 作者は人間の上下関係こそ不和のもとだと、孤独な思索の中で直観している。だからなくしたいと思っている。同じ地上の同じ平面に輪を作って立ち、見つめ合い、微笑み合い、友情を深めていきたいと。
その心が基本になって、いつか上下関係の非和合性に気づく。それに立ち向かうには偏愛しかないことに気づく。隣人との愛、親子の愛、男女の愛。偏愛で闘うのだ。闘いはさびしい。だから闘わずに声高く歌う。歌わなければならない。残されているのは歌だけだから。
優秀賞
一人では つくれないもの 大きなわ
文京区立茗台中学校 ペンネーム:ののか
(講評) 「わ」というテーマにおいて、「輪」や「和」、「話」、「わあ」など、様々な言葉が連想され、それぞれの言葉に基づくエピソードが思い浮かぶ。しかしよく考えてみると、どの「わ」においても決して一人ではつくれないものであることに気づく。
自分以外の他者とのつながりを意識して、「大きなわ」をつくっていきたいものである。
佳作
3匹で 輪になり寝てる 横私
八千代市立八千代中学校 ペンネーム:まな
佳作
わーっと 叫びたくなる 今日明日
桐生市立広沢中学校 ペンネーム:新出発
佳作
出会いつつ 色々な輪を 広げてく
戸田市在住 ペンネーム:本間 孝男
佳作
ワッハッハ 笑えば不幸 近づかぬ
新潟市在住 ペンネーム:那由多
佳作
目が覚めて おきるとそこに お米あり
文京区立茗台中学校 ペンネーム:なし
佳作
肩たたき 相手振り向き 口ゆがむ
文京区立茗台中学校 ペンネーム:なし