• home
  • 夢育川柳「推」入選作紹介

夢育川柳「推」入選作紹介

2024年度 夢育川柳「推」へ、たくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。
総評および入選作をご紹介します。

総評

2024年度夢育川柳「推」審査委員長

川田拓矢(文芸家、日本ペンクラブ会員)

一句読むごとに、推すファンも、推される人も、人間的な感情からかけ離れた狂信の世界にいるとわかり、私自身その世界に巻きこまれるような感覚に陥った。したがって、まともな選評ができたかどうか心もとない。愛欲と財布から遊離した、若者らしい清新な句を見つけるのに血まなこになった。しかし、
伝えたい 推しの凄さを 布教したい
に行き当たるに及んで、みずから体験し得なかった別世界を読み解くために、背すじを正した。

選後のひとこと―1077句を五回読んだ。今年もさまざまな感性に出会えた。皮肉ではなく、すばらしい追体験だった。

高校生の部 入選作とその講評

最優秀賞

夢を見る 貴方が笑って 生きた過去
埼玉県在住 ペンネーム:推しは軍神
(講評) 愛する人に捧げる静かな讃歌だ。集団の追っかけではない。身近な想い人を見つめつづけた果てに、魂を絞って吐き出した吐息にちがいない。〈貴方〉はいま笑わない。もの思わしげな目で空を見上げているばかりだ。暗い視線ではない。空の青さを貫くほど力のある澄んだ視線だ。何を見ているのだろう、あなたの見つめる視線の先にあるものをいっしょに眺めたい。
五句連作の結句がこの作だ。前の四句を掲げる。
 恋ではない崇拝とでも呼ぶべきか
 届くなら何と伝えよう幸せで
 願わくば貴方の見ていた空を見たい
 神になりたい貴方が死なずにいられるように
推しの本質とでも呼べる歌の数々である。明るさや美しさにアテられて褒め讃え、身を投げ出してすがりつこうとするのではなく、憂鬱や苦悩を理解し、ひっそり包みこもうとする情熱。大正期の車椅子の詩人坂本明子の『雪崩の楽章』を思い出し、襟を正すほどの深い感銘を受けた。悲しみに区切りはつけられない。この人は歌をやめないだろう。このまま詠いつづけてほしいと願う。

優秀賞

平和の為 今日も機嫌を 推し量る
柏キャンパス ペンネーム:なし
(講評) 「推量する」の意で投稿された句の一つ。機嫌を推し量る相手はいったい誰なのだろうか。親か、友人か、恋人か。相手が親だったら家の居心地が悪くなる。クラスメートだったら教室内に居づらくなる。恋人だったら・・・・。いずれにしても相手の機嫌を損ねると、気まずい雰囲気になってしまう。平和に過ごすためには相手の機嫌を損ねないことが必須だ。そこで相手の機嫌を推し量りながら過ごす。
円満な人間関係を構築するための作者の気遣いが感じられる句だ。

優秀賞

推測で ネガティブになる ネット民
柏キャンパス ペンネーム:あしのうら
(講評) 「推測する」の意で投稿された句の一つ。何を推測するのだろうか。結びに「ネット民」とあることから、ネット上の情報を基にして色々と推測するのだろう。
「ネット民」とは「ネット上のコミュニティに実社会と同等か、それ以上の価値を見出している人。1日のうちかなりの時間をネットに費やしている人物」のことだ。つまり、ネットが生活の大部分を占め、ネットがなければ生きていけない人々だろう。
ネットで得た情報をあれこれとマイナス方向にとらえ、気持ちがどんどん落ち込んでいく。ネットの情報は真実でないことも多いと分かっていながらも、その情報から様々なことを推測し、ネガティブに捉え、精神的に辛くなっていく。その負のループから抜け出せないでいるネット民の性が読み取れる句だ。

優秀賞

この場所
柏キャンパス ペンネーム:あり
(講評) 確かな詩になっている。面倒で投げ出した書きかけの惹句(じゃっく)ではない。北原白秋の『この道』が髣髴とするが、あれは唱歌の題名だった。音はしぐれか―と詠った種田山頭火よりも短い句。インパクトがある。
部屋だろうか、公園だろうか、森だろうか、校庭だろうか。かぎりなく想像がふくらむ。とにかくこの場所が一推しの空間なのだ。だれにもそういう安住の空間があり、そこでいちばん長い時間を過ごしたいと思う。なかなか問屋が卸さない。
人ではなく場所を推す。心の安らかな置きどころを慕い、仲間たちとの乱痴気騒ぎを嫌う異端がにおう。異端でいい。いつの日か少年らしい孤独の日常を捨てる日がきたときも、忘れず、その場所にこっそり戻っていってほしい。

優秀賞

靴を履き 仕事へ向かう 背中たち
古河キャンパス ペンネーム:R
(講評) 〈推しごと〉ではない、生活のための賃仕事に向かう背中たちだ。この種の推しは胸に響く。その事情はつまびらかにしない。小中学生のころ、土工や建設作業員にあこがれる環境にあったとだけ言っておく。
作者の思いはたぶんこうだ。―私は何を信頼できるか知りたいだけだ。見えるものすべてを手に入れなくてもいい。ときにはただ立ち止まり、素晴らしい光景に見とれて、また歩き出せばいい。
これを謙虚とは呼ばない。覚悟だ。信念と言ってもいいだろう。彼の信念に響いてくる人びと、それを彼は真率に推すのだ。
仲間たちはみな有名病にかかっている。有名でありさえすれば報われる世の中だと思いこんでいる。報われるという言葉の意味をはきちがえて。……有名というのは、個対社会があって成立する。個体個では成立し得ない。病昂じて、個の軽視、個の無視、さらには極端な社会趨勢の重視が始まる。
社会とは見も知らない人びとの集まりである。仲間たちは最終的に社会からの愛がほしいのだろうが、その愛は極限まで薄められたものだ。個から個に与えられる愛のほうが数億倍濃い。報われるとはそのことだ。個を愛し、個の愛に応えるために、この人たちは靴を履き、仕事に向かっている。妻、子供、友人、仕事先の同僚。彼らには真に報われる人生がある。小ぢんまりした人生などとは言わせない。無限の愛に満ちた人生だ。
深読みしすぎかもしれないが、作者の心をしかとそう読み取った。

優秀賞

私だけの 推しだった頃が 懐かしい
前橋キャンパス ペンネーム:ぼー
(講評) 2011年頃から急速に使われるようになった「推し(おし)」とは、「主にアイドルや俳優について用いられる日本語の俗語であり、人に薦めたいと思うほどに好感を持っている人物のことをいう(デジタル大辞泉「推し」の解説)」という意味で現在使われている。当初は「アイドルグループの内の誰を1番好きか?」の「推しメン」からスタートしている。「私だけの推し」をそのような角度から想像してみると、様々な情景が浮かんで来る。グループに居た時はどうだったのか?今はどうなっているのか?思いが膨らむような句である。

佳作

推しごとは お仕事よりも バイタリティ
多古本校 ペンネーム:そらか

佳作

ライブにて 気持ちが見える ペンライト
柏キャンパス ペンネーム:おかば

佳作

流されて 推して押される 大流行
柏キャンパス ペンネーム:しか

佳作

赤子の顔 我が妹よ 一生推す
柏キャンパス ペンネーム:ヒナ

佳作

発売日 並んでるとき 月を見た
西船橋キャンパス ペンネーム:バナナ

佳作

親の顔 伺い気付き 皿洗い
西船橋キャンパス ペンネーム:ああああ

佳作

変換の 一番上は 何時も君
西船橋キャンパス ペンネーム:竜田揚げの落し子

佳作

気付いたら 手に取る小物 一色に
稲毛海岸キャンパス ペンネーム:ゆのみ

佳作

推しメガネ 外してわかる 我のこゝろ
稲毛海岸キャンパス ペンネーム:伊勢十六

佳作

一目惚れ あなたがかけた 解けない魔法
東京キャンパス ペンネーム:みう

中学生の部 入選作とその講評

最優秀賞

人生に 彩りくれる 宝物
千葉県在住 ペンネーム:礼
(講評) 今年度のテーマは「推」。漢字は「表意文字」なので、その点でイメージがある程度限られてしまったかもしれない。ちなみに、「推し活」という言葉が、2021年の新語・流行語大賞にノミネートされたことは記憶に新しい。
今年度の応募作もそういった影響は見てとれた。この作品も自分の「推し」をテーマにしているようである。投句者は、応援している人物や愛好する物事などを、応援して広める活動を通して、日々の生活に活気を得ているのであろう。そのことを、「推し」や「推し活」という言葉を使わずに、さらりと詠んでいるのが良い。この世界に生を受けて15年の存在が「人生に」と冒頭から読み出すのも、ギャップを感じられて微笑ましかった。一方、「推し」の存在はよほど大切な存在であるのだろう、「彩りくれる」と「くれる」という言葉を選択するところも、本人が自らの「推し」によって救われている感じが強く出ている。「彩り」という言葉は普通、「添える」という言葉と結びつくような感じがするが、「くれる」という言葉を選んだ。「く」という音は語気が強く感じられ、そのことも自分の「推し」から「彩りを貰っている」点を強調させている感じがする。

優秀賞

将来を 推しはかるべく 今、努力
茨城県在住 ペンネーム:るりまる
(講評) 推量するの意で投稿された句の一つ。せめて将来の自分の姿がほのかに見えるぐらいの努力をしたいという精力いっぱいの決意。今の積み重ねが未来になる。未来になってみるとその未来も今だ。努力は永遠に終わらない。また決意。その繰り返し。そうやって人は生きていく。
今も将来も同じものならば、将来に結びつけない単品の努力というものも心の安らぎになる。結果を求めないひたすらの勉強、報いを求めないひたすらの奉仕、鑑賞者を求めないひたすらの創造。まちがいなくそれは充実した命の営みだ。
長い営みの清涼剤はある。自分が今やりたいことをやって生きているという時おりの自覚だ。努力とは意気ごみの確認ではなく、断行の継続である。

優秀賞

サンタさん 昔は信じた クリスマス
千葉県在住 ペンネーム:まっち
(講評) 夢とあこがれ(推し)の崩壊―普遍的なプチ悲哀を素朴に表現した。サンタたるべく、ちちははがひそかに奮闘していたことにも気づいて、悲哀に感謝の苦笑が加わったことだろう。もう信じつづけることもつらいし、信じさせつづけることもつらい。「私」が覚醒することで平和な妥協が訪れる。
夢とあこがれは、人が生きるための背骨だとわかっているので、自分が親になってもだれもがサンタを演じることにやぶさかではない。人間が善意に満ちた存在であることはしばしば忘れ去られる。それを思い出させる偶像の存在は不可欠なものだ。偶像(スター)と知りつつ、信じつづける善意を返すべきだろう。それは欺瞞ではない。誠実な返報だ。
たぶん著者は、偶像に対する年齢的な成熟に見合った対応を余儀なくせざるを得なくなった自分を残念がっている。残念がる必要はない。この先も、ほのぼのとなつかしめばいい。なつかしいものの数は多ければ多いほど、毎日の生活が重厚になる。なつかしい惜別の思い出のない人生は空っぽだから。

佳作

推してみて 初めて分かる こともある
群馬県在住 ペンネーム:なし

佳作

推しの子が 父母と同じは 遺伝かな
群馬県在住 ペンネーム:なし

佳作

ガチャ引いて 財布が軽く なっていく
千葉県在住 ペンネーム:ももの木

佳作

勤勉に 推し事してたら 自己破産
千葉県在住 ペンネーム:ももの木

佳作

推し活は とにかくかかる 現金が
千葉県在住 ペンネーム:かがみ

佳作

はやりのり 意味もわからず 推してみる
千葉県在住 ペンネーム:なし

佳作

その気持ち、推し?または恋?どっちなの?
神奈川県在住 ペンネーム:なし

佳作

推し活で 世界広がり 仲間増え
千葉県在住 ペンネーム:Y

佳作

尊いな その笑顔も 存在も
東京都在住 ペンネーム:なし

佳作

推しカラー 買い物行くと 目にはいる
東京都在住 ペンネーム:なし

佳作

触れない 会えなくても 大好きだ
東京都在住 ペンネーム:なし

佳作

疲れても 一度見るだけで すぐ回復
東京都在住 ペンネーム:なし

佳作

宗教の 変わりとなれる 推しの人
東京都在住 ペンネーム:なし