夢育川柳「PURE」入選作紹介
2025年度 夢育川柳「PURE」へ、たくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。 総評および入選作をご紹介します。
総評
2025年度夢育川柳「PURE」審査委員長
川田拓矢(文芸家、日本ペンクラブ会員)
千三百余句が集まった。大半が真摯な精神で作成されていて、うがちどころを捉えており、言葉の才にも長けたものだった。したがって、例年に増して選考に時間がかかった。透明な明るさと、それにマッチする大気や風の爽やかさを切り取った句が多く寄せられたのはうれしいことだった。歌や詩を創作することは難しい。言葉を駆使して創造の領域を切り開いていかなければならない。その先に大いなる思想の平野がある。困難は克服の母と思ってほしい。
さて、純粋さを〈害〉として批判する句がかなりあった。その批判もまちがってはいないだろうが、純粋さそのものを見つめる眼圧に欠けていると感じた。素朴、無知、幼児性、ふり、自然現象そのものへの転射。それをピュアと結びつけるのは容易であり、安易である。純粋さと人間性の真実を結びつけて、人生歴を器用にまっとうした者の勝ちではなく、不器用でも『人間』として純朴に歩みつづけた者の勝ち、と軍配を上げる、それが眼圧である。そういう句の一つが、(魂の 本質を知る 心の詩)のゴチゴチした歌だった。
技巧は等閑に付して、万葉・古今にも匹敵する精神性と抒情性の高い秀歌を中学生、高校生が作る事実に驚嘆する。軽妙な川柳を集めて選者たちで微笑みたいというのがこのイベントの出発時の趣旨だったが、いまや様相が一変した。若い醇乎(じゅんこ)たる精神との闘い、あるいは競争になった。快哉(かいさい)を叫びたい。
ちなみに、(まっすぐに 君がいるから 笑えるよ)~(ほほえみに こころがふわり はなひらく)まりなさんの10句にわたる痛切な歌の群れに由々しき事情を感じたが、失礼でなければ、誤解を承知であなたの人生にエールを送らせていただく。あなたの佳句。
つまずいて 起き上がるたび 空がある
高校生の部 入選作とその講評
最優秀賞
優秀賞
無邪気に遊んでいたあの頃の僕には、ビーム光線が見えていた。でも今は・・・・。
PUREだった幼い日々を懐かしむ気持ちを詠んだ句であろう。
全てひらがな書きにすることにより、両親の庇護のもと、優しくあたたかい空気に包まれながら、無邪気に男の子が遊んでいる、ほのぼのとした情景が目に浮かぶ。
透明感のある、良い句だ。
優秀賞
作者にお願いする。生涯かけて、心の詩を探しつづけてほしい。人に、ものごとに、人がものした作品に……ぎこちなく、たゆまずに。それこそあなたの純粋さが抽出された求道の姿だ。いつの日か、魂の本質を知ることよりも、探し求めるあなた自身が純粋であると気づき、そうやって生きてきた心がまさに魂の本質だったと気づくだろう。
優秀賞
郷愁ではない、痛みの記憶。左ひじの手術が失敗に終わったと知った夜の、病院の廊下(選者は野球選手だった)。あの廊下も、夕暮れのような薄闇の中に沈んでいた。十三歳からこんにちまで、数かぎりなく夢に見てきた。
作者はたぶん、幼時の喜ばしい思い出として滑り台を遠く見つめている。遊び疲れた友だちが、「バイバイ」をして一人ひとり、夕餉の待つわが家へと帰っていく。遊び足りない作者は、独りで何度か滑ったあと、「またあしたこよう」とうなずき、夕暮れの中の滑り台を振り返りながら家路につく。
人間のやさしさを涵養するピュアな郷愁。麗しく複雑な感情作用。美しい心のひっそりとした証明。大げさではなく、これがなくなれば〈人間〉社会の文明も文化も途絶する。
優秀賞
「意味が一つ」。言い切っているのに、少し寂しい。この香りは、あのときにしかつながらない。
上書きもできないし、別の思い出で薄めることもできない。楽しかったのか、少し苦かったのか。読む側は、自分の記憶を自然に重ねてしまう。
思い出を抱えたまま生きることを、この句は静かに肯定している。派手でもない。説明もしない。
でも、人の心の奥に、ちゃんと残る一句だ。
優秀賞
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
佳作
中学生の部 入選作とその講評
最優秀賞
おそらく遺言書には、分与数値ばかりでなく、彼あるいは彼女の紆余曲折した人生の哲学的内省や総決算の覚悟がこめられている。人は現瞬の行動がすべてで、襟を正した総決算など何ほどのものでもない。結果的にひ孫ちゃんはそれを笑い飛ばした。
年齢の垢で潤色されていないピュアな衝動―何のわだかまりもなく、おもしろいことはおもしろいと感じる好奇心。人の一生は好奇心から始まる。それを失ったとき、すべてが停滞する。停滞した人はわが身を亡くして、笑い飛ばされながら後進へ命を譲らなければならない。
作者の着想の卓越と、切り取り能力のすばらしさにうなる。
優秀賞
白いワイシャツとは、実に手がかかるものである。汚れやすい首まわりを手洗いし、しわを伸ばしてアイロンをして、たまに洗濯のりでパリっと仕上げる。シャツの用意をしながら、「さあ頑張るぞ」と気を引き締める。まっさらな気持ちで明日に臨めるように。
あのころのきみたち、元気でいるかい。会いたいね。でも会えないだろうな。きみたちはおとなになってしまって遠くへいったから。ぼくはいまもこどものままだ。少なくとも少年であろうと努力するおとなでいる。センチメントは人生を豊かにすると信じながらね。 ―涙が流れた。ダイヤのような思い出。戻らないもののすばらしさ。