わせがくトピックス

2021年度 夢育川柳「新」 総評および入選作紹介

(2021.12.15更新)

2021年度 夢育川柳「新」へ、たくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。
総評および入選作をご紹介します。

総評

ふざけた作品や、受け狙いの作品がとんと姿を消した。それだけに例年以上に選考の目を皿にしなければならなくなった。芸術的な媒体で直接自分の思いのたけをぶつけようとする表現者の意気込みに対峙するには、享受側には相応の覚悟がいる。媒体駆使の巧拙ではなく、表現者の魂そのものに没入する覚悟だ。
鍛錬で改良できる技巧を重んじた結果のデキの良し悪しよりも、ゴロンとした原石のような深い思索、熱く、するどく自分の命と他人の命を見つめる力。そして、人間の感情と知性の総合力であるユーモアもその凝視から生まれる。
あと何年、きみたちの真摯な歌に触れられるか。老爺の願い届け。

夢育川柳「進む」審査委員長 川田拓矢
(文芸家、日本ペンクラブ会員)

高校生の部 入選作とその講評

最優秀賞
チャッキリ ふくよかな祖母の 茶摘み
ペンネーム「すいそうがく部」多古キャンパス
(講評)季節は五月。人も草木も清新なエネルギーに満ちあふれる時候。チャッキリ。茶切り。袋つきの茶摘みばさみで茶葉を刈る。30番までもある北原白秋作詞の静岡民謡『茶切りぶし』でも有名なチャッキリだ。句頭としてじつにシャレている。インパクトもある。
肉付きの良い健康そのものの祖母が茶を摘む姿。古参のチャッキリ娘。それを見つめる作者の温かい視線。句の軸として胸に刺さる視線だ。もちろん作者も新緑の季節の中でエネルギーに満ちている。世代を超えた清新なエネルギーの融合。ものみな始動する新しさとはこういくことを言うのにちがいない。私も清新な気分で選んだ。
優秀賞
新品の コスメで自分も 新しく
ペンネーム「アールグレイ」柏キャンパス
(講評)化粧をすると心が引き締まり、自然と前向きな気持ちになる。「新品のコスメチックを使うことにより、昨日までとは違う新たな自分になれそうな気がする。」そのような前向きで充実感に満ちた気持ちを詠んだ句。いつも身だしなみに気を配る女子の爽やかさが読み取れる作品である。
優秀賞
制服も 緊張してる 入学式
ペンネーム「こころ」柏キャンパス
(講評)高校の入学式。中学校までとは違い、周囲を見回しても見知らぬ顔ばかり。「クラスメートはどんな人たち?」「友達は出来るかな?」「担任の先生は?」等等、不安なことがいっぱい。そんな雰囲気の中、新入生だけでなく、新入生が着ている真新しい制服まで緊張しているように見えたという、入学式での様子を詠んだ作品。読むこちらまで、張り詰めた空気を感じる一句だ。
優秀賞
コロナ禍で 自分も世界も 更新中
ペンネーム「クラゲ」古河キャンパス
(講評)生きやすかった世界を余儀なくあきらめるつらさ。新しさが進歩ではなく、単なる防御の無力感へ変わることへの憤り。建設的な更新ばかりとはかぎらない。でも、この世の摂理とあきらめるわけにはいかないぞ。
優秀賞
新感染 東京大阪 止まらずに
ペンネーム「瑞奈」西船橋キャンパス
(講評)センスのいいシャレでぶちのめす。新幹線停車駅のメガロポリスをふっ飛ばして、どこまで行けば気がすむの?できれば宇宙の果てへぶっ飛んでいきなさい。ああ、でも、この句が早く思い出の世界に閉じ込められてほしい。
優秀賞
はじめまして マスクの下を 想像し
ペンネーム「たびと」東京キャンパス
(講評)新入生にとってクラスメートは知らない人ばかり。「はじめまして」「これからよろしくね」等、教室では様々な言葉が交わされる。でもコロナ禍で全員マスク姿。マスクを外した素顔はどんななのだろう?想像しながらの高校生活が始まった。目の前にいる友人の顔を想像しなければならないなんて、こんなことは今までなかったのに・・・。コロナ禍特有の学校生活の一コマを捉えた句である。

中学生の部 入選作とその講評

最優秀賞
落とし物 なぜ人々は 拾わない
ペンネーム「ゆずいろ」春日部市立大沼中学校
(講評)この作者の次句に『「後悔」 その思い出は 無くならない』とある。後悔に苛まれる苦悩は創造に結びつき、昇華の喜びを手中にさせる。この句に<のに>をつければ、上記の次句になる。つまり、落し物は後悔なのだ。硬貨や紙幣などという欲得がらみの遺失物ではない。その貴重なものをなぜ人は拾って昇華させないのだろうと作者はいぶかしんでいる。むろん作者は拾いつづける。新たに生きていく糧だから。古い、ださい、暗いと、誠実さを罵られる風潮の中で、作者は確固とした瑞々しい命を生きている。文句なしの選。
優秀賞
ニューファッション マスクの形で 日に焼ける
ペンネーム「そらっち」春日部市立大沼中学校
(講評)コロナが大流行し、マスク着用が必須の毎日。夏の炎天下でもマスクは外せない。帰宅してマスクを外した顔を鏡で写して見ると、日焼けした顔に、マスクの形でくっきりと白い跡が…。マスクを外しても、まるでマスクをしているような日焼けをした顔。パンデミック禍ならではのこの現象を作者はまるで「ニューファッション」だと皮肉っている。風刺を含んだ一句である。
優秀賞
夏の朝 目覚まし時計は セミの声
保坂 郁斗 春日部市立大沼中学校
(講評)夏休みに入るまでは、ちゃんとした目覚まし時計で起きていた。さあ、これからはゆっくり寝られるぞ。そうは問屋が卸さない。カナカナ以外のセミは朝の六時から七時のあいだに鳴きだす。起きろ、起きろ、サボるな。へい、わかりました、きょうもがんばります。都会ではこうはいかない。メリハリのある新鮮な郊外の暮らしが偲ばれる。
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