わせがくトピックス

2022年度 夢育川柳「転」総評および入選作紹介

(2022.12.13更新)

2022年度 夢育川柳「転」へ、たくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。
総評および入選作をご紹介します。

総評

軽薄な、あるいは冷笑的な作品が数年かけて消滅した。どの作者も真摯に自分に向き合っていることが痛切に伝わってくる作品ばかりになった。川柳という、滑稽味を眼目とする表現形式の枠を拡大解釈した結果だと思われる。考えてみれば、人はみな滑稽で悲しい存在である。悲しみまで拡大していっこうに構わない。となると、怒り、疑惑、苦悩、希望、倦怠や絶望、すなわち感情全般まで拡大して構わないということになる。それこそ佳品が増えたゆえんだろう。

心強いのは、プッと吹き出すようなユーモア満点の作品もきちんと混入しているということだ。あらゆる感情が練られた精華がユーモアだから、当然と言えば当然のことだろう。たとえば思わずニンマリしたのにこんな句があった。女性の作者である。

 転々と 転転転転 転転転

芭蕉の「松島や ああ松島や 松島や」のアイデアの〈転用〉だろうが、転という字面を利用してシャレている。ただ労が少ない。「手がそれた アタシャてんまり 転転転」ぐらいの工夫がほしかった。

2022年度 夢育川柳「転」審査委員長 川田拓矢
(文芸家、日本ペンクラブ会員)

高校生の部 入選作とその講評

最優秀賞
今はまだ フンコロガシ見て 笑ってる
所沢キャンパス ペンネーム:どきんちゃん
(講評)
笑ってる自分を省みて笑ってる、という二重構造。いずれ自分がなるフンコロガシを見て笑えるか、という二重構造。そこから見えてくるものがある。
フンコロガシも懸命に生きているという発見、他者への共感だ。それは深い発見にちがいない。終生おろそかにしてはならない慈愛の目だろう。
優秀賞
周りの目 自分の心 選ぶのは
稲毛海岸キャンパス  ペンネーム:葉瑠
(講評)
さあどっちだと迫られれば、結論は出ている。でも躊躇する。人はそれを「社会はきびしい」と知ったようなことを言う。きみは人間として正しく進んでいくだろう。信念は転ばないから。
ひとこと。いつか正しさの変化球を身につけてほしい。もちろん、自分が価値としない周りの目は選ばなくていい。しかし、価値の集約物である愛する者の目は選んでほしい。愛よりも信念を尊重するかどうかは、人間最大の苦悩だとあきらめて、いさぎよくその苦しみをお受けしてください。
優秀賞
転入日 仮面の笑顔 本物に
東京キャンパス  ペンネーム:きのこ
(講評)
おめでとう。出会った人たちが本物だったからだよ。転校の多かった選者にも経験あり。苦々しい過去よ、さようなら。この日から本物の自分で生き直そう。胸を打つ句だ。
優秀賞
お転婆な 私がいるよ 胸の内
川越キャンパス  ペンネーム:なずな
(講評)
テーマの「転」を「お転婆」の中に見つける想像力に脱帽。「お転婆な私」は聴き手がなんでも許してしまうあざとさのキラーワードでもある。胸の中で私がグルグルとかけっこしている光景が目に浮かぶようだ。どんなことがあっても、何度でもやり直せる勇気をもらえる句である。
優秀賞
さっきまで 笑ってたのに 母の顔
東京キャンパス  ペンネーム:長野 壱業
(講評)
家庭で母子がいつものように何気ない会話を交わしている。時には笑い声も出て、とても和やかな雰囲気だ。しかし、受験生なのにいつまでも勉強をせずにダラダラしている子どもの状況を見かねた母親が表情を急変させた。その表情を見て、
「あっ、怒られる!」
「まずい、(勉強を)やらなくっちゃ!」
受験勉強をしなければいけないことを分かっていながら、やらずに怠けていた自分。
母親の顔を見て、改心した瞬間を詠んだ句だ。
優秀賞
躓いて 転んだ先の 八重桜
水戸キャンパス ペンネーム:竜胆
(講評)
読み手のその時の心境に寄り添ってくれそうな句だ。シンプルに情景を思い浮かべて微笑むのも良いし、八重桜の性質から遅咲きでも大きな実りがあると考えることもできる。「躓いて」に敏感に反応する時なら、今は大変な時期でも明るい未来に思いをはせるかもしれない。
ペンネームが竜胆(りんどう)なので、作者は植物に関心があり、八重桜に深い思いが込められているのかもしれない。作者の竜胆に関する作品も見てみたい。
佳作
きみのため 教えてあげる 留年を
柏キャンパス ペンネーム:おまめ
佳作
後悔を 時間軸ごと 逆回転
柏キャンパス ペンネーム:熊
佳作
転び傷 昔は証 今無意味
勝田台キャンパス ペンネーム:しゅう
佳作
秘密とは 隠すも晒すも 命懸け
稲毛海岸キャンパス ペンネーム:葉瑠
佳作
変わりゆく 変わらないもの あるんだよ。
稲毛海岸キャンパス ペンネーム:水野恋
佳作
趣味の輪が 廻り変わり 目指す夢
東京キャンパス ペンネーム:あめ
佳作
転んでも転機があれば好転に
東京キャンパス ペンネーム:オレンジ
佳作
失言で 空気が一転 凍りつく
東京キャンパス ペンネーム:1105
佳作
我焦る 塾へ転がる 大学受験
東京キャンパス ペンネーム:ステラーダイカイギュウ
佳作
定まらぬ コロコロ変わる 未来への光
所沢キャンパス ペンネーム:TW
佳作
転居する 小さな転機 良い天気
太田キャンパス ペンネーム:どん
佳作
君の声 僕の心に 転写して
川越キャンパス ペンネーム:なずな

中学生の部 入選作とその講評

最優秀賞
何もない ところでたまに 転んじゃう
柏市立中原中学校 ペンネーム:スノーウルフ
(講評)
これ簡単じゃん、大したことないじゃん、オレけっこういけるじゃん。そういう油断、あなどり、高慢といった自己過信が、一頓挫を引き起こすんだ。恐ろしいのは、一頓挫ではすまなくなることが往々にしてあるということ。何でもないと思ったときこそ気を引き締めよ、ものごとが容易に見えるとき、落とし穴が待ち構えている―人生の要諦。
でも、要諦ばかりに気を配っているのも人生の彩りに欠ける。この作者にはそれがわかっているようだ。転ぶ自分を微笑しながら見つめているユーモアに満ちた句。
優秀賞
ペンケース 中身をかえて 心機一転
八千代市立大和田中学校 ペンネーム:さやか
(講評)
かなり重大な真理を表現している。変化の新鮮さは生きるエネルギーなのだ。むかしから人間はモチベーションを蓄え直すのに、旧態を一新させることを利用してきた。ささやかな行動から、図らずも真理に着眼できた喜びが伝わってくる慎ましい秀句。
優秀賞
かなわぬ夢 少しの勇気で 大逆転
柏市立中原中学校 ペンネーム:ブン
(講評)
夢はかなって欲しい。それにはまず一歩前に出る事、その一歩が出ずに悩んでいる。
ほんの少しの勇気があれば、夢をつかむ事ができる。是非大逆転してほしい。小さいけれど未来につながる勇気である。
優秀賞
友達と 笑い転げて 腹痛い
柏市立中原中学校 ペンネーム:むさし
(講評)
青春そのもの。笑わせ、笑わされ、永遠に笑っていたいけど、なかなかね……。おじさんおばさん、だれでも記憶しているなつかしい一瞬。よくぞ文字にしてくれました。
佳作
転んでも 必ず笑顔で 起きてやる!
柏市立中原中学校 ペンネーム:赤いシャム猫。
佳作
大きな夢は 小さな1歩で 転がるよ
柏市立中原中学校 ペンネーム:ブン
佳作
コロナ禍でも 人生の転機 すぐそこに
柏市立中原中学校 ペンネーム:しじみ
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