2020年度 夢育川柳「進む」へ、たくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。
総評および入選作をご紹介します。
総評
歌い上げるこころ、つまり、表現しようという気組みのしっかりした作品が例年になく増えてきていることに驚いた。若者の時代にしか得られない人間的なまじめさーそれは文明社会の進歩に身をひたしてノホホンと悦に入ることではなく、人間本来の原始的な感情(苦悩・喜び・憧れ・希望・感傷・生命欲・愛情)に立ち戻ることだ。そのまじめさに触れられたことがうれしく、なつかしく、そして深く打たれた。
進むのは、進む一方の機械文明だけではない。人間のこころも、立ち戻り、深く内省し、少しずつぎこちない足どりで進むのだ。それは若者だけの現象ではないけれども、少なくとも若者のそれは人間全体の模範となり得る。若者の心に精力があることこそ、人間全体を溌溂とさせるのだ。
夢育川柳「進む」審査委員長 川田拓矢
(文芸家、日本ペンクラブ会員)
入選作
入選作の講評 ▼▲
少しずつ 過去の私を 置いていく
過去をいっしょに背負う歌(ともに最優秀賞入選作)を選者は推した。自然の摂理で、少しずつ過去を置いていくのは当然だが、いっしょに連れていく気概を選んだ。とは言え、過去を振り捨てつつ進むのも人生の大事な方途ではある。
過去の僕 共に進もう 未来へと
自分を背負うのは自分。過去もいっしょに背負って、現在を生き、未来へ進むのだ。
鼓ヶ滝 月光の畏怖 彼方者
彼方者(あっちもの-死ぬと決まった者)。この人は背負うものに耐え切れず、死を決意したのだ。そのとき滝つぼの崖の上で煌々と輝く月の光に畏怖を覚えた。自分以外のものを畏怖する心。この心があるかぎりは、まだ生きていられる。この人は、死ぬのをやめてそこを去り、そしてこの歌を書いた。愛他という一つの業績を残した。おそらくこの句を書いたのちに前句(最優秀賞)を書いたのだろう。それ以前の二句から、覚醒のきっかけの失恋が偲ばれるが、覚醒の前にそんなものはどうでもいい。才ある人だ。
進む時 輝く日々に 気づかずに
普遍的な感懐。しかし胸を打つ。若者が浸るこの感傷は美しい。
リモートで 私の進路 見つからず
当たり前だと思っていた日常が一変した今年、リモートの利便性と共に限界にも気づかされた。そのことを端的に表見した一句。
ハートまで つまむ彼女の 箸使い
作者は、クラスメートの彼女に「好きだ」ということを告白できずにいるのだろう。昼休みに彼女が弁当を食べる姿を見ていると、おかずをつまむその美しい箸使いに、作者の恋心がますます募って行く。そのような青春の一コマを詠んだ句である。
地図に無い 僕の大陸 探してる
大いなる野望の歌。地図にない自分だけの大陸-偉大なる先人たちの棲んだ土地だ。ぼくも探しだせるだろう。